郷音から広がる、ゆかり(縁)の一雫。
大阪府泉佐野市上之郷。
田畑や里山の風景が今も残るこの場所に、
築百年を超える小さな門屋があります。
門屋とは、門の続きに建てられた、
門と一体になった建物のこと。
この地域では「もんや」と呼ばれています。
郷音は、この門屋とともに受け継がれてきた物語から生まれました。
受け継がれたもの

郷音のロゴに描かれている家紋は、
この家に代々受け継がれてきた女性の家紋です。
築百年の門屋も、この家紋も、
先人たちが守り続けてくれた大切なもの。
時代が変わっても、
大切なものを受け継ぎながら次へつないでいく。
その想いを込めて、
郷音のシンボルとして家紋を用いています。
建物の存続を考えた時期もありました。
家族で何度も話し合い、
修繕して活かしてみようという結論に至りました。
きれいに生まれ変わった門屋を見ながら、
母がふと口にした言葉があります。
「ここで、カフェでもしてみようか。」
その一言が、
郷音の始まりでした。
50歳からの挑戦
当時、私は建設業界で
インテリアコーディネーターとして働いていました。
空間づくりには携わっていましたが、
飲食業はまったくの未経験。
まして郷音がある上之郷は、
商業施設が立ち並ぶ場所ではありません。
「本当に人は来てくれるのだろうか」
そんな不安もありました。
それでも、
「人が集まる場所が少ないなら、
ここがその場所になれたらいい。」
そんな想いが日に日に大きくなっていきました。
地元の方が気軽に立ち寄り、
誰かと出会い、
ほっとできる場所をつくりたい。
そうして50歳で、
新しい挑戦を始めることを決めました。
エチオピアとの出会い
開業準備を進めるなかで出会ったのが、
エチオピアのコーヒー生産者METADでした。
地球の反対側で、
自然と共に生きながらコーヒーを育てる人たち。
その姿勢に強く心を動かされました。
誰が育てたのか。
どんな土地で育ったのか。
顔の見える関係の中で生まれるコーヒーには、
味以上の価値があると感じたのです。
初めてMETADのコーヒーを飲んだとき、
果実のような香りとやさしい甘さに驚きました。
コーヒーは苦いものだと思っていた私の価値観を、
その一杯が変えてくれました。
一杯のコーヒーから生まれる縁
開業を目指していた頃、
世界はコロナ禍に入りました。
先の見えない不安もありましたが、
それでも歩みを止めることはありませんでした。
大きなことはできなくても、
目の前の人とのご縁を大切にすることはできる。
門屋という場所から、
新しいつながりを生み出すことはできる。
そう信じて続けてきました。
お客様との出会い。
生産者との出会い。
地域との出会い。
郷音は、一杯のコーヒーから広がる
たくさんの「ゆかり」に支えられています。
未来へ
これから先、
気候や食の環境は大きく変わっていくかもしれません。
だからこそ、
価格だけではなく、
背景や想いにも目を向けて選びたい。
郷音にできることは決して大きくありません。
誠実に育てられた豆を選び、
丁寧に淹れ、
その物語を伝えていくこと。
受け継がれた門屋と家紋のように、
大切なものを未来へつないでいくこと。
築百年の門屋から生まれる一杯が、
誰かの日常を少し豊かにし、
新しいご縁につながっていくことを願っています。